東京地方裁判所 昭和24年(行)112号 判決
原告 井原虎之助
被告 下谷税務署長
一、主 文
本件訴は之を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和二十四年七月二十八日付を以て爲した所得金額十七万円、所得税額四万三千二百九十三円加算税額二千九十五円追徴税額九千七百円とする訂正処分は之を取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めた。
三、事 実
昭和二十三年度以降自轉車チエン更正機及び製繩機藁打機の製作販賣並にその他機械工具の取次を業とするものであるが、昭和二十三年七月二十六日附を以て同年度所得見積額を金七万五千八百円差引予定納税を金三千八百四十二円とする予定申告書を被告に提出し、同時に所定の税額の所得税を納付し、次で昭和二四年一月二十七日附を以て確定所得金額を金六万六千九百円所得税額を金四千四百四十二円とする確定申告書を被告に提出し、同時に所定の税額の所得税を納付した処、被告は右確定申告に対し同年二月二十六日附を以て原告の昭和二十三年度所得金額を金二十万円、所得税額を金五万二千三百四十九円と更正を爲し、同年三月十一日原告は右通知を受け、右更正に異議があつたので同日より一月以内である同年四月八日右更正に対し不服の事由を具し、被告を経由して東京財務局長に審査の請求を爲したが、其の後被告は昭和二十四年七月二十八日附を以て右所得金額を金十七万円、同所得税額を金四万三千二百九十三円、加算税額を金二千九十五円、追徴税額を金九千七百円と訂正し、同月三十日原告は右通知を受けたが、之に対しても異議があつたので、同日口頭により不服の事由を具して審査の請求をした。而して原告は正直に漏れなく記載した帳簿による計算に基いて右確定申告を記載提出したもので原告の昭和二十三年度総收入は金八十三万七千二百七十八円、棚卸資産二十六万五千九百円、総必要経費金百三万六千二百七十八円であつて、営業不振により結局原告の同年度所得総額は金六万六千九百円に過ぎないにも拘らず、被告は原告の所得状況を愼重に檢討せず賣上高の二割以上の利益あることを強力に主張して原告の眞実の所得を遙かに越えた不当に過大なる前示訂正による課税処分を爲したものであるから、原告は右違法なる訂正処分の取消を求める爲本訴請求に及んだ次第であると陳述し、被告の妨訴抗弁に対し(一)昭和二十四年七月二十八日附訂正処分は同年二月二十六日附更正処分を全部取消し、消滅せしめた上新に爲した課税処分と認むべきであるから、行政事件訴訟特例法第五條の六ケ月の出訴期間は原告が右訂正処分を知りたる日即昭和二十四年七月三十日より起算されるべきである、(二)又同法第二條の所謂訴願前置主義の趣旨は行政廳に原処分に再考、是正の機会を與えるにあり從つて被告が原告のなした審査請求を適法と認め之に基き、再考の結果前示訂正処分をなしたものである以上、それが東京国税局長(東京財務局長)名義の裁決でなくても実際上審査請求に対しては税務署長に於て決定を爲している慣例からして同條に所謂裁決、決定その他の処分を経たことに該当するものと言うべきであるから、本訴は行政事件訴訟特例法第二條の要件を充している、いづれにしても被告の訴訟要件欠缺の主張は、理由がないと述べた。
(立証省略)
被告指定代理人は、本案前の答弁として原告の訴は却下する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、その理由として、(一)本訴は所得税法第四十九條第一項の審査請求期間経過後になされた不適法な審査の請求を前提として居るから不適法である。即ち被告が爲した昭和二十四年七月二十八日附訂正処分は同年二月二十六日附更正処分につき被告が発見した誤謬を訂正し、その一部を取消すものであつて、更正処分に於ける所得金額二十万円の中誤謬のあつた一部金三万円を取消し、結局金十七万円と訂正したものであつて新に金十七万円の課税処分を爲したものではなく又右訂正処分はいわば自発的になされたもので、原告の審査請求に應じた裁決決定其の他の処分でもない。從つて原告に対する課税処分として本件訴訟の対象となるべきは前示更正処分の中右訂正により取消された部分を除くその余の処分に限り、審査請求期間及出訴期間もすべて右昭和二十四年二月二十六日附更正処分を基準として起算されるべきである。然る処右更正処分の通知は同年三月三日に発せられ、遅くとも通常郵便の到達日数を経過した同月六日に原告に到達したのであり、仮に原告主張の如く同月十一日に到達したとしても、原告の審査の請求は同年四月十六日被告に受理されたのであるからいづれにしても、所得税法第四十九條所定の一箇月の審査請求期間を徒過した後なされた不適法なものである。從て原告のなした右審査請求は行政事件訴訟特例法第二條にいわゆる審査の請求とは認め難く、本訴は同條本文の要件を欠くから不適法たるを免れない。(二)仮に然らずとしても本訴は行政事件訴訟特例法第五條第一項所定の出訴期間を徒過した後なされた不適法なものである。即ち前示の如く原告が本訴に於て取消を求めるのは昭和二十四年二月二十六日附更正処分であるから原告が右処分のあつたことを知つたと主張する同年三月十一日から六箇月以内に取消訴訟を提起すべきであるにも拘らず、本訴は右六箇月を遙かに徒過した同年十二月十九日に提起されたのであるから、本訴は同法第五條第一項に違背し不適法である。以上いづれの理由によるも原告の訴は訴訟要件を欠いた不適法のものであるから却下を免れないと述べ、本案に対する答弁として原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張事実中原告がその主張の如き予定申告並確定申告を爲し所定税額の所得税を夫々納付したこと、右確定申告に対し被告が原告主張の如き更正処分を爲し之に対し原告が審査の請求を爲したこと、被告が原告主張の如き右更正処分に対する誤謬訂正処分を爲し、右処分の通知が同月三十日原告に到達したことはいづれも認めるが、その余の事実はすべて否認すると述べた。
(立証省略)
四、理 由
原告が昭和二十四年一月二十七日附を以て被告に対し昭和二十三年度所得の確定申告を爲し、之に対し被告が同年二月二十六日附を以て原告の昭和二十三年度所得金額を金二十万円、所得税額を金五万二千三百四十九円と更正を爲したところ、原告は右更正に対し被告を経由して東京財務局長に審査の請求を爲したが、被告は昭和二十四年七月二十八日附を以て右所得金額を金十七万円、所得税額を金四万三千二百九十三円、加算税額を金二千九十五円、追徴税額を金九千七百円と訂正し、右訂正処分の通知が同月三十日原告に到達したことは当事者間に爭いない。而して原告は本訴に於て右訂正処分の取消を求めているのであるけれども、確定申告に対する更正金額により更に所得金額又は所得税額を増加する更正処分に対して異議ある場合には右更正処分を対象として審査請求等不服申立の道があることについては、所得税法第四十六條第四十九條に明文があるに反し、本件の場合の如く確定申告に対し更正された所得金額又は所得税額より減少せる所得金額又は所得税額に訂正する処分については異議ある場合、独立して不服申立をなし得ることは同法に何等規定なく、又右訂正処分により納税義務者は少くともその納付すべき所得税額に関してはむしろ有利であつて、特に不利益を受けるものとは言い得ず、右の如き訂正処分はその実質は原処分の一部取消に外ならず、先の更正処分と一体を爲して当初から訂正された内容の処分があつたと同様に取扱わるべきものと解すべきであるから、以上の点より見て右訂正処分それ自身は独立して不服申立の対象となるに適しないものと言わねばならない。その結果原処分に対して不服申立をなすことなく、既に法定の期間を経過しているときは、もはや後に訂正処分があつたことを理由に新に不服申立をなし得ざるべきも、既に原処分に対して不服申立をしている本件の如き場合は、訂正処分以後は之により訂正を受けた内容が不服申立の対象となるべく、実質的には右訂正処分の適否に付ても裁決を期待し得らる。尤も成立に爭いのない乙第二号証の記載及び弁論の全趣旨より認め得られる前示原告のなした審査請求に対し未だに決定のなされていない事実を綜合すれば、本件訂正処分は右審査請求に対應するものであつて、実質上審査請求に対する決定に相当するものであるかの如き観を呈しているけれども、本來審査請求に対する決定は処分廳の上級廳が之をなすべきものであり、所得税法施行規則によるも右の如き決定の権限は国税局長が之を有することゝ定められ、その権限を税務署長に委任し得る旨の規定又は慣行の如きは之を認め難いから本件訂正処分を以て審査請求に対する裁決決定その他の処分に該当し、從つて之に対し取消の訴をなすことを得るとは軽々に断じ難い。
以上の如く本訴は本來不服申立の対象となり得ない訂正処分の取消を求めるものであるから、不適法たること明かである。
この点につき本件訂正処分の本質が以上の通りであるとすれば、原告が本訴に於て期せるところは結局前示の如く右訂正処分により取消されたる一部を除くその余の前示更正処分の取消を求めるにありとも解し得られるけれども、然らば原告が右更正処分を知つた日時が仮に原告主張の如く昭和二十四年三月十一日であるとして原告は行政事件訴訟特例法第五條第一項により、同日より所定の六箇月以内に本訴を提起すべかりしに拘らず、本件訴は右出訴期間を徒過した後たる同年十二月十九日提起されたことは当裁判所に顕著なことである。結局本件訴は不適法であつて、且つその欠缺が補正すること能わざるものであるから之を却下すべきである。(尤も原告は前示審査請求に対する決定に対し更に訴を提起し得ることは勿論であつて政府は速やかに決定をなすべきものである。
仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 仁分百合人 吉岡進 香川保一)